古湯ゆけむり店主たちが選ぶ「愛」にまつわる本と映画 - PART3

2024.09.23 NOTE posted by hinatabunko

PART1、PART2 お好きな作品や本屋さんはありましたか?
さてPART3 では私たちひなた文庫の2人がおすすめしたい本と映画をご紹介したいと思います。

ゆけむり店主7人目: ひなた文庫店主①(熊本・南阿蘇)

南阿蘇鉄道の駅舎に週末のみ現れる古本屋「ひなた文庫」書店員。取り扱う本に関する業務全般を担当しています。出版社や大型書店での勤務経験を生かしつつ、過疎化する地域でどうすれば書店を継続できるかを模索しています。熊本地震後の本屋の日々について執筆した寄稿文には、新潮2016年8月号『生きている限り潰れない本屋』(新潮社)、『創る人52人の「激動2017」日記リレー 』(新潮社)、コロカル連載『南阿蘇ひなた文庫だより』(マガジンハウス)などがあります。

本 『モデラート・カンタービレ』 著者:マルグリッド・デュラス

息子のピアノレッスンの付添い時に情痴殺人事件を偶然目撃するブルジョワ夫人のアンヌ。レッスン後、酒場で知り合った男とその事件について言葉を交わす。次の日もレッスンが終わると酒場に立ち寄りその男と事件について語る。その次の日も。
事件になぞらえながら交わされる二人の会話からしだいにアンヌの情熱と絶望感が炙り出される。自らを意識した時にはすでに身動きが取れず翻弄されるしかない重苦しさ。軽やかな恋愛ではないが一人の女性の覚醒(もしくは破滅)が描かれる。ピーター・ブルック監督『雨のしのび逢い』として映画化もされている。タイトルのモデラート・カンタービレとは普通の速さで歌うように。

出版:河出書房新社/1985年

映画 『アンドリューNDR114』 監督:クリス・コロンバス



アイザック・アシモフのロボットSF短編「バイセンテニアル・マン」が原作の映画。
 マーティン家に配送されてきた家事用ロボット・アンドリューには製造上のミスから自分で考え、行動できるアイデンティティが備わっていた。一家の主人はやがて彼を「一個の家電」ではなく「一人の友人」として接する。やがて時は200年が過ぎ、アンドリューはマーティン家のポーシャという女性と恋に落ちる。
この作品のテーマは「ロボットは人間になれるか」だが、人間を人間たらしめる最もな部分は「愛」だと思う。人間のように恋に落ち、「愛」を知ったアンドリューはどんな最後を迎えるだろうか。

配給:ブエナ・ビスタ・ピクチャーズ&SPE/132分

制作:アメリカ合衆国/1999年

本屋の営業時間などの情報はひなた文庫のinstagramをチェック→https://www.instagram.com/hinatabunko/

ゆけむり店主8人目: ひなた文庫店主②(熊本・南阿蘇)

ひなた文庫のものづくり担当。STUDIO SOFT所属。学生時代に情報科学を専攻し、ヒトの脳機能についての研究をしていました。妻に誘われ応募した「本の未来について」のコンペがきっかけで、アナログだと思っていた紙の本には、制作者の意識が集約されたメディアとしてのデジタル的な側面があったことに面白さを感じて以来、妻をサポートする形で本に関する企画に携わっています。そのほか地域行政のデザイン関連の仕事もしながら、個人の制作活動として使われなくなったレトロな電子機器をハックするプロジェクトに取り組んでいます。

本 『月の満ち欠け』 著者:佐藤正午

どんなに生まれ変わっても一緒にいたいと思える人はいますか。
「生まれ変わり」という現象が引き起こす不思議なお話。時代の違う登場人物たちの交わるはずのなかったそれぞれの人生が、会話の中で断片的に明かされてゆくにつれ見事に交差していく展開にページを捲る手が止まらずあっという間に読み終えた記憶があります。愛に飢えた魂があてもなく時代を彷徨っているようにも、プラトニックな愛を求め探し続けているようにも感じました。薄気味悪さも含め、フィクションだからこそ辿り着ける究極の愛についての思考実験的な物語。

出版:岩波書店/2019年

映画 『エレクトリック・ドリーム』 監督:スティーブ・バロン


恋愛と聞いて一番に思い出すのはなぜかこの映画。80年代のアメリカ・サンフランシスコの建築会社で設計士として働く青年マイルズ。仕事に遅刻しがちな彼は会社の同僚にスケジュール管理のガジェットを勧められて電気屋へ。そこで見つけたレトロでチープなパソコンが笑ってしまうほど高性能。家に迎えて使いこなそうと無茶をしたことをきっかけにそのコンピュータに”自我意識”が芽生えてしまい…。同じアパートに越してきた可憐なチェリストに恋する彼らのラブ・ロマンスを、メロディアスな80年代の電子音楽と共にコミカルに描いた作品。
劇中に登場するチャットAIのようなコンピュータが思い描いた「電子の夢(エレクトリック・ドリーム)」を、今の時代に違和感なく観れてしまうこの感覚に、「科学技術の発展の順当さ」への少しの驚きとちょっとした恐怖を覚えます。いつの時代もテクノロジーの進歩を追いかける形で倫理観がアップデートされてゆくものですが、それは恋においても例外ではなく、指先だけで合理的に恋人や運命の相手を見つけ出せるようになった現代からこの映画を観ている私は、時代遅れなはずの恋愛観の中にどこか「普遍的な愛の調べ」のようなものを感じているからこそ”無意識に”この映画をおすすめの作品に選んだのかもしれません。

配給:MGM&20世紀スタジオ/96分

制作:アメリカ合衆国&イギリス/1984年

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レトロ電子機器ハック制作ポートフォリオ→https://sundaymaker.myportfolio.com

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